新青森:第十話
試験が終わった。
試験会場まで新青森駅から約4時間、ホテルにいたのが約9時間、そして試験は自画像を3時間の間に描く。最初丁寧に書いていたけれど、なんだか途中でバカらしくなって殴りつけるように書いた。結局試験会場にいたのは試験の前後も含めて2時間ちょっと。試験会場では一番最初に退出しちゃった。
試験だけを受ける。それだけのために私は東京までやってきた。それだけじゃ勿体ない、東京は都会なんだから、もっといろんなものを見ていこう。ヒルズも、ミッドタウンも、サンシャインも見ていこう。……そう、思っていた。だけど、今は帰りたくて仕方が無い。
祭じゃないかと思う位人がいる。外人も多い。街にはテレビで見た事のあるショップが至る所にある。欲しかった洋服、かわいいアクセサリー、素敵なカフェ。私が憧れていたものが全てある。だけど、それは「あるだけ」だった。
それが確認できただけでもヨシと思わなきゃ。駅前のネットカフェに飛び込んでシャワーを借り、冷や汗なのか火照りから来る汗なのかよくわからない汗を洗い流す。よく考えたらネットカフェも行きたかった場所だった。狭く区切られた薄暗い空間で何がしたかったんだろう。自分の座席で携帯の充電をして、トウキョーさんにメールを送る。
『東京なう。楽しいよー』
これは私の精いっぱいの強がりだ。
帰りの夜行列車の出発は21時。おしゃれなパンとお茶を買って夜行列車に乗り込む。「あるだけ」の街は窓枠という名の切り取られた空間から見えるだけとなった。
「夜行列車は何があるかわからないから」
という理由で女性しか乗らない車両の指定席をトウキョーさんは取ってくれた。普通そういう時は個室じゃないの?って言うと
「個室は個室で狭いよ」
……確かに席を確認したら狭かった。用意してくれた座席はふとんや枕が無いけれど、ごろんと寝転がるには最適の場所。やっぱり広いところがいいなと思う。……ただし、化粧品のにおいがきついけれど。
列車は一路私が住んでいる町へと走り出す。心地よいレールの音が体全体に響き渡るのだけれど、なんだか眠れない。時々列車は真夜中の駅で停車する。ホームの電気は付いているのに、駅名が書かれたところだけは付いていない。そしていつもは人がいるであろうその空間に誰もいない。なんだか不思議な感じがした。
(あーあ、このままだと眠れないかな。)
そう思いつつ明日の為と割り切って、私は自分の座席で横になった。
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