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2011年8月24日 (水)

新青森:第九話

 東北新幹線が全線開業した。青森が一気に東京と繋がった。それと同じく、僕と彼女も繋がった。

あ、繋がったといっても肉体的なというか、エロス的な展開というか、そういう青年漫画雑誌的な展開にはならず、相変わらず妹とお兄ちゃん状態だけど。連絡先を交換して、一緒に青森県の美しい風景を見に行く。ただそれだけで、それ以上の関係なんか築くことは難しかった。

ただ、新幹線が開業した事で僕は猛烈に忙しくなった。地方のモータリゼーションはかなり進んでいて、青森駅を利用していたお客さんの大半が直接新青森駅へとやってくるようになった。そりゃあ駅前に900台も駐車できるのだから、直接来るのも頷ける。これを見ていて僕は久しぶりに車を動かそうとセンパイに話したら

「あ?トウキョーは雪道で死にたいってか?」

……なるほど、僕はまだまだ都会の子と認識されているみたいだ。確かにまだまだ雪道は怖い。いくら青森の道が整備されて、傍目からは普通の道と同じように見えているとはいえ、そこはやっぱり雪国。僕はその意見に素直に従うことにした。やはり僕は鉄道マンなのだから、鉄道を利用しないと。

仕事を終えて木瀬狩駅まで電車で帰る。車窓はもう晩秋、いつ雪が降ってきてもおかしくはない。白一色になるのかと思えばなんだかワクワクするけれど、それが生活に直結すると思うとぞっとする。晩秋の風景なのに、東京よりも寒くなっている。ボンヤリと白く曇っていく窓を眺めつつ、僕は彼女にメールで連絡を取った。

 

「題名:トウキョーです。

 日曜日、久しぶりに休みが取れたのでどっか行こうか」

『題名:RE:トウキョーです。

 おっけーです。何着ていったらいい?リクエストは?』

「題名:RE:RE:トウキョーです

 >>リクエストは? 

 十二単」

『題名:ちょっwww

 拙者いとおかしき平安貴族じゃないぞなもしwww』

 

いつもの通り木瀬狩駅で待ち合わせ。結局彼女は十二単を着ることなく普通の姿でやってきた。僕にとって久しぶりのデートは面白かった。単純に会えるだけでも楽しいのに、場所が僕にとって未知なる場所でのデート。見るもの、触るもの、食べるもの、その全てが僕にとってかけがえのないものになっていく。

「……そういえば、勉強してる?」

『へ?なして美味しいコーヒーさ飲んでる時にそんな事言うの』

確かにコーヒーはおいしかった。美術館に併設された喫茶室だというのに趣がある室内としっかり真のあるコーヒー。そんな場所で勉強の話を出す、ちょっと会話の選択を間違えた気がする。

「ほら、大学に進学するんでしょ。センター入試とか色々あるんじゃないの?」

『大丈夫、芸術大学って推薦入試っていうのがあるから。』

「あ、芸術系の大学に行くんだ?」

『そうそう、お金はかかるって言われてるけれど、やっぱり自分のやりたい事をやらないと。』

そういうと彼女は目の前にあった僕のケーキからイチゴを盗んだ。

「あ、オレのイチゴ!」

『へへーん、食べてなかったのが悪いんですよーっと!』

「……チクショー、最後まで取ってたのに。うわ、マジでヘコむわ。」

「……で、芸術大学ってどんな事を試験でするの?」

彼女はコーヒーをぐるぐるかき混ぜながら語りだした。

『うーん、正確に言えば実技。デッサンってやつかな?』

「デッサンって試験会場でするの?」

『そうそう、会場の中で被写体をスケッチするんだ。去年は男性のモデルさんがヌードになってたから今年は女の人かな?』

「えっ?」

『ほらー、なんか変なこと考えてるー!。っていうかね、青少年にそんな過激なモノはできないよー』

彼女はしたり顔で僕の方を見つめた。

『正確にいえば年度によって違うんだ。胸像、ほら美術室に入ったらありそうな像があるでしょ。アレをデッサンしたり、鏡に映った自分の顔を書きうつしたりするの。当日課題が発表されるから、得意な方が試験になってほしいなぁって感じ。』

「で、試験っていつするの?推薦入試って早いんでしょ?」

『うん、早いよ。来週。』

僕は思わずのけぞった。ギャグ漫画だとあごが外れてコーヒーが流れていく場面だろう。流石にそれはしなかったけれど、驚いたことは確かだ。

「ら、ら、来週?!そんな状態でココに来ちゃったの!?」

『トウキョーさん驚きすぎー!。大丈夫よー、やる事は全てやってきたんだから、後は当って砕けろ!ってな感じでやるっきゃない!』

「来週っていつぐらい?」

『うーん、来週試験だからその前の日には新幹線で東京まで行くよ。ホテルに一泊して試験受けて、その後東京観光して夜行列車で帰ってくるの。』

「夜行って木瀬狩駅に止まるアレ?」

『そう。一度アレに乗ってみたかったんだ―。東京に行く時って大抵飛行機だもん。たまには汽車で行かねばねー。』

「……意外とミーハーなんだね?」

その言葉を聞くと彼女は残していたイチゴを頬張った。

 

『ミーハーなのかな、今まで体験したことないのを体験するのって。』

 

「え?」

彼女の眼が少し緊張した感じで僕をまっすぐ見つめている。

『ほら、同じ事を繰り返すのもいいかもしれないけれど、初めてな事、新たな刺激を得るっていう事は今まで自分がやってきた事の価値を振り返って知るという意味でも大切な事だと思うんだ。』

「確かにね。たまには違う事を経験するっていうのも一つの手だと思うよ。」

僕は静かにコーヒーを飲んだ。

「だけど、新しい事を経験したらそれをうまく活用するようにならないとね。知っただけでは何も始まらないから。」

『……うーん。』

彼女の目は納得していなかった。

「まぁ、一度経験して見たらわかると思うよ。」

 

僕は彼女の眼を直視できなかった。

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